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昔がなつかしいなぁ2025年12月29日

こんにちは。メディカルホーム苗間介護士 向後 修です。

今回は、Sさんのタクシー運転手だった頃の話です。

「だいぶいい歳になった。今でもふとした拍子に、二十代後半で始めたタクシー運転手の頃の匂いが蘇る。

排気ガスに、タバコ、深夜のラジオのあのザラついた声、ああいうのが、若い頃の私の青春だなぁ。」

タクシーに乗り始めたのは、昭和四十年代の終わり。高度成長の熱気がまだ街に残っていて、

夜の繁華街は、どこも活気があった。今みたいにスマホで呼ばれる時代じゃないから、

流しが勝負。ハンドルの感触ひとつで、その日の稼ぎが決まるような、そんな空気だったよ。

忘れられないのは、雨の夜、ワイパーが追いつかないほどの豪雨で、フロントガラスが白い膜みたいになってね。

普通なら怖くてスピードを落とすところだが、あの頃の私は若くて無鉄砲だった。

前席には酔っぱらいのサラリーマン、後部座席には泣いている若い女性。

二人とも赤の他人なのに、雨音がやけに大きいせいか、三人で同じ船に乗るような一体感あった。

「兄ちゃん、安全運転で頼むよ」「すみません早く帰りたいのですが…」

そんな声を背中で受けながら、私は大雨の街をゆっくり走った。ネオンが水たまりに混ざり合い、

世界がやわらかく滲むあの景色は、いまだに忘れられないよ。結局、二人は同じ方向だったらしく、

「ご縁だなぁ」なんて言いながら、相席で帰っていった。タクシーの中で知り合って、

その後どうなったかは知らないが、人生にはああいう不思議な交差点がある。

またある日は、深夜の町で、身なりのいい紳士を乗せた。沈黙が長く続き、

ミラー越しに目が合うと、ぽつりと言った。

「運転手さん、人はね、幸せになるために生きるんじゃないんだよ」

「へぇ、じゃあ何のためです?」「誰かの幸せの、足元をちょっと支えてやるためさ」

何の仕事をしていた人か分からないが、その言葉だけは今でも胸に残っている。

タクシー運転手って、人を運ぶだけの仕事じゃない。愚痴を受け止めたり、泣き言に相槌を打ったり、

その日の人生を少しだけ支える。そんな役目もあるのだと、その夜知ったね。

今にして思えば、タクシーの運転席は、人生の交差点の最前列だった。

笑う人、怒る人、泣く人、夢を語る人、恋に破れた人……

そんな人たちを毎日ドア一枚隔てて見ていたのだから、私もあの頃ずいぶん鍛えられた感じがする。

歳をとった今でも、道路に出ると、街灯の光、夜風の匂い、そして人の息づかい。

あの頃の自分が、ひょいと隣に座って

「まだまだいけるぞ」と笑っているような気がする。あれから。人生も終盤戦に差しかかってきたが、

若い日のタクシー稼業で拾った言葉や景色は、今も私のハンドルをまっすぐに保ってくれている。

Sさん懐かしい良い思い出ありがとうございます。

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