こんにちは。メディカルホーム苗間の介護士 向後 修です。
今回は、Aさんの思い出話をしたいと思います。
Aさんは、幼少期、家族で何度か宮崎の「鬼の洗濯板」
と呼ばれる美しい海岸を訪れたことが今でも鮮烈に思い出されます。
小さな手を母に握られ、足元に広がる波模様の不思議な岩肌を歩いた感覚。
それはまるでおとぎ話の世界に迷い込んだようでした。
波が砕けて白い泡を岩に残す様子は、心の底から楽しく、
自然が生み出したこの造形美に感動しました。
その頃の私にとって、「鬼の洗濯板」は、「どうして鬼が洗濯をするの?」と
母に質問したことを覚えています。母は笑いながら、
「きっと大きな鬼がこの岩を使って服を洗っているんだよ」と
言ってくれました。幼い私はその言葉を信じて、岩を見つめながら待ったものです。
年月が流れ、戦後の混乱や生活の困窮も経験しましたが、
心の中の「鬼の洗濯板」はいつも輝きを放つ存在でした。家庭を築いた後、
子供たちを連れて再びあの場所を訪れることができたとき、
若かりし日の思い出が一気によみがえりました。
今度は自分が子供たちの手を握り、「この岩で鬼が洗濯をしているんだよ」と
語りかける側になったのです。子供たちの笑顔を見ると、
あの日の母の笑顔が重なり、胸が熱くなりました。
その後も度々訪れる機会がありましたが、
歳を重ねるにつれて岩場を歩くのは難しくなりました。
ただ、あの風景を眺めるだけで十分です。
波の音と潮の香りが過ぎ去った日々を鮮やかに蘇らせてくれます。
「鬼の洗濯板」は私の人生の節々を繋ぐ絆のような場所。
あの場所で育まれた思い出が、私に生きる力を与えてくれました。
Aさん良い思い出ありがとうございます。